モロッコで幾何学タイルに魅了されて

※スイス、Japan Club of Genève 広報誌
「BONJOUR!れまん」創刊第200号記念特集 「レマンの輪」掲載文
2019年12月


私が幾何学タイルと出会ったのは忘れもしない16年前のことだ。なぜ忘れもしないのかというと、それは私達の新婚旅行だったからだ。
新婚旅行の先はモロッコ。西アフリカの国だ。当時、新婚旅行でモロッコに行くのはあまりメジャーではなかったようで、結婚披露宴の時に司会者が「新婚旅行はモロッコに行くそうです」と言った時、会場がどよめいたほどだ。
その後、雑貨や家具がおしゃれということが日本でも注目され、ちょっとしたモロッコブームが訪れた頃より日本からの旅行者も格段に増えたのではないだろうか。
幸いジュネーブからは飛行機で3時間ほどで訪れることができるため、昨年末、家族と共に念願の2回目のモロッコ旅行が叶った。皆さんお得意のフランス語も通じるため、大変オススメの旅行地と言えると思う。
それはさておきモロッコで出会ったタイルの世界の話である。
モロッコは伝統工芸がとても大切にされており、それを作る技術を持ち、職業としている人がたくさんいる。そしてそれらの手作りのものを人々が日々の生活の中で大切に使用しているように感じる。タイルもそれらの伝統工芸のうちの一つであるようだ。
タイルを使用した建物といえばイスラム教のモスクを想像する人も多いだろう。これらのタイルで描かれた模様は偶像崇拝を禁止しているイスラム教徒にとって「宇宙」を意味するものだそうだ。モスク内にある小宇宙というわけである。
また、モロッコでは宗教的なところのみでなく、幾何学模様のタイルは日常生活のいたるところにあることを感じられる。例えば家の床、階段、壁などいたるところに使われている。
絵が書かれたタイルを使った建物や、タイルを細かくしてモザイク画を作る「モザイクタイル」は世界中の国々で愛されている手法と言えるだろう。どこの国に旅行しても、見事な絵や床を鑑賞することができる。
しかしモロッコのそれらのタイルは製法が少々異なる。まず色のついた四角いタイルを焼き上げる。その後、のみのような道具を使って幾何学模様のパーツを割って切り出す。各種パーツが出来たらそれらのタイルを裏返しに置いていく。そしてモルタル、いわゆる目地材を流し込み固まったらそれを表に返して完成という流れである。
まず驚くのは職人のタイルを切り出す技術だ。ただの直線だけでなく、複雑な形のもの、星型のようなもの、曲線のものなどもある。手元がほんの少し狂っただけで使い物にならなくなってしまう。それを朝から晩までカツカツと切り出しているのだ。
そしてできあがるまで完成形を拝むことができない方法は非常にスリリングであると感じる。裏返してみたらひとつだけ色が間違っていた… なんてことは許されないのだから!
これらの緻密な作業を知った後で床一面の幾何学模様のタイルを見ると、計算され尽くした幾何学模様であるが一つ一つ手作りのタイルを使用しているため、手作りならではの歪みや色の違いなどを感じることができる。私にとっては見れば見るほど奥深いものと感じられる。
その後、私は幾何学タイルを再現したいと思い、帰国してからまずモザイクタイルについて学んでみた。日本では小さい四角いタイルをニッパーで割って絵を作っていく手法を学ぶことが出来たので、タイルを使った作品を作ることができるようになった。
しかし、タイルを使った可愛らしい絵を作るのは、何だか私の作りたいものとは違うような気がしてきて、ここ数年は幾何学タイルを再現する方法をあれこれ考えている。まずは幾何学模様が自分で描けないといけないわけなので、描き方を習いに行ってもみた。また、陶芸教室に行って幾何学タイルを作らせてもらい、それで作品を作ってみたりもしてみた。
さて、どうやったら再現できるのだろうか。そんなことを考える時間がまた至福のときでもある。


山田駒子

とまとはうす mosaics

モザイクの技法を用いてタイルの作品を作る教室です。

0コメント

  • 1000 / 1000